――不安とチャンスが交錯する“いま”をグローバル視点で見る
近年、OpenAIのChatGPTや高精度な機械翻訳など、いわゆる「生成系AI(Generative AI)」がものすごいスピードで進化しています。その影響は翻訳業界にも大きなインパクトを与えていて、すでにプロ翻訳者の働き方が変わりつつある状況です。
それだけではありません。これから翻訳の道に進みたいと考えている若い世代(学生や新卒など)も、「将来、本当に翻訳で食べていけるのか?」という不安に直面しています。
今回は、SNS上の声やアンケート調査、業界ニュース、翻訳教育機関の報告などを参考に、生成AI時代を生きる若年翻訳者志望者の実態をグローバルな視点でまとめてみました。
「翻訳は全部AIに置き換わっちゃうの?」という不安
「将来、翻訳の仕事ってAIに取られちゃうかも……」――こうした声は、若い翻訳志望者の間でも確実に広まっています。実際、イギリスの作家協会が行った調査では、4分の3超の翻訳者が「生成AIは自分たちの収入にマイナスの影響を与える」と考えている、という結果が出たそうです。
しかも、すでに「AIによって仕事を失った」「収入が減った」という報告もあり、若い人が「じゃあ私が大人になる頃には翻訳は全部機械がやってるんじゃ…?」と不安になるのも無理はありません。実際、日本でも「翻訳家なんて将来なくなるよ」と先生に言われた高校生の話がSNSで話題になったこともあります。
一方で、「全部が全部、機械になるわけじゃない」と考える人も多いようです。SNSを見ていると、「確かにAIに置き換わる部分は増えるけど、それは他の職業も同じ。翻訳という仕事そのものがゼロにはならない」という意見も根強い印象。
専門家の中には「マニュアルや定型文などはAIに任せられる可能性が高いけど、高度な文脈理解やニュアンスが必要な文章は人間の出番が続くだろう」という声もあります。実際、文学翻訳や創造的なライティング要素が強い翻訳は、まだまだ人間がやる領域が大きいようです。
悲観派 vs. 楽観派──若者たちの本音
こうして生成AIが大きく進化する中で、翻訳というキャリアを「やっぱり無理かも…」と諦めてしまう人と、「むしろチャンスが増えるかも!」と前向きに考える人の両方が出てきています。実際のところ、若い世代の意見は悲観派と楽観派の間を行き来している感じ。
悲観派の声
- 「AI翻訳がここまで高精度なら、今から翻訳を専攻する意味ってあるのかな?」
- 「国際会議通訳もAIで置き換わったらどうするの?」
- 「これからは翻訳案件が減っていくし、ポストエディット(AIが出した訳文を人間が修正する仕事)ばかりになるのでは?」
実際、トルコではAIの精度向上に伴い、従来あった翻訳案件が減ったという話も。若い人たちは“同時通訳者を目指す”つもりが、現実にはAIの出力評価やデータ整備の仕事をせざるを得ないケースが増えているようです。
楽観派の声
- 「AIが処理できる部分を任せれば、人間はもっとクリエイティブな翻訳に集中できる」
- 「ポストエディットの需要は確実に増えているし、新しい仕事の形が生まれている」
- 「そもそもグローバル化でコンテンツ量が激増しているから、翻訳自体の“総量”は増えている」
とくにアメリカの翻訳・通訳系大学院が行ったアンケートでは、「AIの影響はプラスとマイナス両方ある」と考える人が大多数だったそうです。悲観もあるけれど「総合的にはプラス寄りかな」という人が少なくないイメージです。
また、ベテラン翻訳者からは「AIを恐れるというより、使いこなしたもん勝ちだよ」というメッセージが若い人へ発信されることも増えています。「白紙から翻訳するより、AIの提案をうまく活用して効率を上げていくべき」といった声は業界誌やSNSでもよく見かけます。
世代・スキル背景で変わる「不安度」
ただ、「若いからみんなAIに抵抗なく前向き!」とも言い切れません。実は世代やスキル背景によって、AIへの反応はけっこう分かれています。
- 現役のプロ翻訳者(中高年層)
仕事を失ったり、収入が下がったりした体験談を持つ人もいて、AIに対する警戒や危機感が強い印象。その一方で、「ポストエディット案件をこなしながらキャリアを積んでいる」という声も。 - これから業界に入る若年層
デジタルネイティブで、AIツールそのものにはあまり抵抗がないケースが多い。ただし「新人が最初に任される簡単な仕事はAIに置き換わりつつあるので、いきなり高度なスキルが要求される」という厳しい現実があるという話も。 - 翻訳を専門的に学ぶ学生
最近は大学や専門学校でもCATツールやポストエディットの実習がカリキュラムに組み込まれるようになり、AI時代に必要なスキルを身につけて卒業するため、ある程度自信を持って業界に飛び込める人も。ただしイギリスなどでは「機械翻訳に置き換えられない仕事だけが残り、新人の参入ハードルが上がるのでは?」との声も。
経済的な事情や言語ペアの需要状況なども絡んでくるため、一概に「若いから大丈夫」「ベテランは危ない」とは言えないのが実情です。
地域によって温度差がある?
生成AI翻訳の影響は、地域や言語圏によっても違いがあります。英語・スペイン語・フランス語などのメジャー言語では、AI翻訳モデルの精度がすでに高く、人間の翻訳者が「仕事を奪われるかも…」という不安が特に大きいようです。
いっぽう、中国や日本は、AIを「インテリジェントアシスタント」と位置付け、前向きに導入している例が増えています。中国の翻訳大学ではChatGPTなどを翻訳演習に使ってみる授業もあるそうで、学生たちはAIを“パートナー”のように活用しようとしているとか。日本でも、「AIと共存しながら自分の強みをどう発揮するか」に注目が集まっています。
また、トルコのように翻訳マーケットが大きくない地域では、低コスト重視でどんどん機械翻訳に移行し、その結果、人間の翻訳者はAI開発企業向けのデータ整備などへ転身している例も報じられています。逆にアフリカや東南アジアの一部地域では、まだAIのリソースが十分ではなく、人間の翻訳者が引き続き重宝される場合も。ただし、そうした低リソース言語も今後AIが急速に追いつく可能性があり、「絶対に安全」とは言いきれない状況です。
今後のカギは「翻訳者の再定義」
こうした世界の動向を総合すると、若い翻訳者志望者は「AIが翻訳をすべて奪うのか?」という問いに対して、決して一色ではなく、「不安もあるけど、前向きなチャンスがある」と考え始めているのが実情のようです。
ポイントは、「翻訳者」という仕事をどう再定義するか。昔のように「原文をそっくりそのまま別の言語に置き換える役割」だけを担う人材は、確かに機械翻訳と競合しがち。でも、「言語サービスの総合プロフェッショナル」として、AIが訳した文章をさらに分かりやすく書き直したり、文化背景を踏まえたクリエイティブなローカライズをしたり、最終的な品質を保証したり……といった付加価値を生み出せる人にはニーズがあります。実際、「凡庸な翻訳はAIに任せればOK。でも、人間にしかできないことはまだ山ほどある」という声は、多くの業界人が共通して口にしていることです。
- 高度なポストエディター
AIが出力した文章をしっかり品質管理し、より自然な表現に仕上げる。 - AIとの協働翻訳者
最新ツールを駆使しながら、クリエイティブな部分や文脈理解の部分で真価を発揮する。
こんな「ハイブリッド型」の働き方は、すでに多くの企業や機関で進みつつあるようです。特に翻訳市場が拡大するグローバル企業や国際機関では、「高付加価値の翻訳」を担う人材が今後も必要とされるでしょう。
まとめ:試練とチャンスが同時に来ている
最後に、若い翻訳者志望者にとってのポイントを整理してみます。
- AI翻訳の精度は急速に上がっているが、人間翻訳者の完全な代替にはまだ距離がある。
- 大事なのは「AIより上手に訳す」ではなく、「AIを活用して、より高品質や創造的な成果を生み出す」こと。
- 若い世代は技術リテラシーが高いため、逆にAI時代のニーズにマッチするチャンスがある。
- 地域や言語圏によって状況は違う。特に大きい市場ほどAI競合は激しいが、そのぶん協働モデルも進んでいる。
悲観的な声もある一方、実際にはAIと共存しながら新しい仕事の形が生まれているのが現状です。生成AI時代に翻訳業界がどう変わるかはまだ流動的ですが、言語への熱意を持ち、AIを味方にできる若い人には明るい未来があるように思えます。
翻訳者という仕事の「形」は変わるかもしれません。でも、人間が築くコミュニケーションの領域や複雑なニュアンス表現は、そう簡単には消えないはず。「形を変えながら生き残り、そして発展していく」――これが、多くの若年翻訳者志望者にとってのリアルな展望ではないでしょうか。
参考にした記事・レポートの一部
- The Guardian: “Survey finds generative AI proving major threat to the work of translators”
- Middlebury Institute of International Studies: “Eight Key Insights from ‘AI and the Future of Translation and Interpretation’”
- Kaya Genç (Rest of World): “Desperate for work, translators train the AI that’s putting them out of work”
- フェロー・アカデミー翻訳研究所: 「AI翻訳で翻訳家の仕事がなくなる?将来性とスキルアップの必要性」
- その他SNS(Reddit、Yahoo知恵袋など)でのユーザー投稿・コメント
(※実際にはさらに多くの海外論文・ニュースも参照)
いかがでしたでしょうか?
「AI時代」といっても、まだまだ輪郭が定まっていない部分も大きいのが現状です。しかし、翻訳という仕事に興味を持ち、言語を愛し、時代の変化を柔軟に取り入れようとしている若い人たちは確実に存在します。翻訳業界がこれからどんな姿に変わっていくのか、私たち自身もウォッチしながら、「AIとどう共存するか」を探っていきたいですね。