翻訳者にとって、効率的な作業をサポートするCATツール(Computer Assisted Translation Tool)の選択は非常に重要です。今回は、メジャーなCATツールの特徴、メリット、デメリットを翻訳者目線でまとめてご紹介します。

CATツールとは?

CATツールとは、翻訳者の効率を上げるソフトウェアのことです。過去の翻訳を参照・再利用する翻訳メモリや専門用語の管理などの機能があり、翻訳の質と速度を向上させます。


メジャーなCATツールの紹介

それではさっそくCATツールをいくつか紹介しようと思います。

あざらし

前置きはいらんねん

1. SDL Trados Studio

  • 特徴:業界標準として多くのプロフェッショナルに選ばれる定番中の定番ツール。
  • メリット:豊富な機能、動作が安定している、定期的にアップデートされる。
  • デメリット:高価。後付けで機能追加が多いため、どこにどの機能があるのか分かりにくく、初心者やフリーランスの翻訳者にはややハードルが高いかも。

業界での長い歴史と実績により、多くの翻訳者や翻訳会社に採用されています。翻訳メモリの管理や用語データベースの利用など、専門家向けの高度な機能が充実しています。
しかし、機能の多さが裏目に出て、初心者にはインターフェースが複雑に感じられることがあるかもしれません。

2. memoQ

  • 特徴:使いやすさと柔軟性が強み。多くの翻訳者に支持されている。
  • メリット:高機能(Trados以上かも?)。使い勝手がいい。多くの翻訳会社で採用されている。Tradosのファイル形式をサポートしている。
  • デメリット:動作が重い。

翻訳者の実務経験を反映したデザインや機能には定評があり、日常の翻訳作業をスムーズに進めるための機能が充実しています。
その一方で、高機能故にリソースを多く消費し、動作が重く感じることがあるのがネックです。

3. Wordfast

  • 特徴:シンプルで初心者向け。クラウドベースとデスクトップ版が存在。
  • メリット:TradosやmemoQに比べて価格が安い、すっきりしたインターフェース、Macに対応している。
  • デメリット:機能は限定的で、使い勝手があまり良くない。

価格を重視する翻訳者には魅力的な選択肢となるでしょう。基本的な機能はしっかりと揃っており、コストパフォーマンスに優れています
しかし、高度な機能や細かいカスタマイズを求めるユーザーには不向きかもしれません。

4. OmegaT

  • 特徴:オープンソースで無料のCATツール。
  • メリット:無料、基本的なCATツール機能を持つ、無料(2回目)!
  • デメリット:プロフェッショナルな機能が限定的、サポート体制が弱い、でも無料(しつこい)。

オープンソースという特性上、ユーザーコミュニティが非常に活発であり、トラブルや質問に対するサポートが期待できます。
初心者でも取り組みやすいインターフェースですが、商用ツールに比べると高度な機能やサポートが限定的です。

5. Deja Vu

  • 特徴:先進的な翻訳メモリ技術とプロジェクト管理機能。
  • メリット:一貫性のある翻訳の品質、大規模なプロジェクトの効率的な管理。
  • デメリット:UIが独特で、使い始めは取っつきにくい。

品質保証や大規模プロジェクト管理の機能が特に優れており、大量の翻訳をこなす専門家には向いています
一方、価格が高めであるため、初めてCATツールを導入するユーザーや低予算の翻訳者にはハードルが高いかもしれません。


翻訳者の皆さんにとって最適なCATツールは、使用する言語、予算、作業のスタイルなど様々な条件によって変わってきます。各ツールの試用版を利用し、自身のニーズに合ったものを見つけるのが良いでしょう。

…とはいうものの、個人的なおすすめはあります。


ズバリおすすめはOmegaTとmemoQ

Ken

あくまでも個人的な意見です

まずはOmegaT

初めてCATツールを導入する場合、OmegaTはおすすめの選択肢です。無料で利用できるため、まずはこのツールを通してCATツールの基本的な機能や利点を実感することができます。OmegaTでの体験を通じてCATツールの操作に慣れたら、より高度な機能やサポートが求められる場合に有料のツールへの移行を考えると良いでしょう。

本命はmemoQ

個人的に翻訳ツールを数多く試してきた中で、memoQの機能は一番使いやすいと感じています。その背景には、翻訳者目線での機能設計があり、それが明確に感じられるからです。

memoQの優れた点

  1. 互換性の高さ:多くの翻訳会社で採用されているだけでなく、同業界の巨頭であるTradosのファイルも処理可能です。これにより、様々なファイル形式の依頼にも対応できるという強みがあります。
  2. 用語の挿入キーを一つ押すだけで、あらかじめ登録された用語を瞬時に挿入できる機能は非常に役立ちます。これにより、一貫性を保ちながら迅速に翻訳を進めることができます。
  3. 翻訳メモリの活用:翻訳メモリは多くのツールで利用できる機能ですが、memoQにはその中でも顕著な特色があります。他のツールでは、高いマッチ率がなければ過去の訳文が自動的には表示されません。しかし、memoQの場合、マッチ率が低くても、以前に翻訳された原文と現在翻訳している原文との間に部分的なマッチがある場合、その関連部分が明示されます。これにより、過去の翻訳を効果的に参照し、文脈に合った翻訳を行うことが容易となり、文書全体の一貫性も保ちやすくなっています。

これらの特徴は、まさに「かゆいところに手が届く」設計になっていると感じます。

しかし、注意点も…

高機能であるがゆえの欠点も無視できません。特に、動作の重さは最大のデメリットと感じています。サーバーメモリを利用している際など、セグメントを確定するたびに1、2秒の待機時間が発生します。これが積み重なると、大幅な作業の遅延につながり、結果的に翻訳者のストレスがたまってしまいます。

まとめると

memoQは翻訳者にとって非常に強力なツールであり、日常の翻訳作業において大変役立ちます。ただし、動作の重さに関しては改善の余地があると感じます。翻訳者としては、その点を考慮しながら最適な作業環境を構築することが求められます。


業界と翻訳会社によるCATツールの指定

これまで翻訳者目線でCATツールを紹介してきました。

…が、実際のところ、翻訳者が自由にCATツールを選べる場面は限られています。特に、翻訳会社との契約を結ぶ場合、会社側から特定のCATツールの使用が指定されることが非常に多いです。

あざらし

え。 じゃあいままでのなんやったん

Ken

私の経験では、指定されるツールの割合としてはだいたいこんな感じです。

  • memoQ: 5
  • SDL Trados Studio: 4
  • Wordfast: 1

この数値はあくまで私の個人的な体感であり、実際の翻訳業界全体や他の翻訳者の経験に基づいたものではありません。翻訳業界内でも、専門分野や登録している翻訳会社によって、推奨・要求されるCATツールの傾向は異なるでしょう。

あざらし

これがホンマやったら、Tradosにも対応できるmemoQさえあれば9割いけるってことやん

翻訳者としての柔軟性の重要性

このような状況を鑑みると、翻訳者としては複数のCATツールに慣れておくことが求められます。特に、フリーランスの翻訳者は、様々なクライアントや翻訳会社との取引を想定して、幅広いツールのスキルを習得することをおすすめします。これにより、依頼の幅を広げることが可能となります。

また、最初に投資するツールを選ぶ際は、自身の目的や狙う市場、そして将来的なキャリアパスを考慮して決定すると良いでしょう。


翻訳業界は日々進化しており、新しいツールや技術が次々と登場しています。しかし、その核心には「品質の高い翻訳」が求められることに変わりはありません。ツールはあくまでサポートの一部であり、翻訳者自身のスキルや知識が最も価値のあるものと言えるでしょう。


番外編: クラウド対応CATツール

クラウド対応のCATツールは、インターネットを通じてアクセス、共有、保存を行うことができるツールです。ブラウザを使用しての作業が可能なため、OSに縛られず、タブレットなどのデバイスでの作業も容易になります。処理の重たい部分はサーバー側で実行されるため、ユーザーは特に高性能なマシンを用意する必要がないのです。さらに、翻訳者やプロジェクトのメンバー間のコラボレーションもスムーズに行えるというメリットがあります。以下に、クラウド対応の主要なCATツールを紹介します。

1. MemoQ Cloud

  • 特徴:一般的なMemoQの全機能をクラウドベースで利用できる。
  • メリット:いつでもどこでもアクセス可能。複数の翻訳者とのリアルタイムの協同作業がスムーズに行える。

2. Wordfast Anywhere

  • 特徴:Wordfastのクラウドベース版。無料で利用可能。
  • メリット:Webブラウザから直接アクセスして作業が可能。初期投資が不要。

3. SDL Trados Studio Cloud

  • 特徴:業界標準のSDL Trados Studioのクラウド版。
  • メリット:複数のデバイスや場所からでも同じ環境で作業ができる。チームとのコラボレーションが容易。

4. Smartcat

  • 特徴:完全にクラウドベースのCATツール。翻訳メモリや用語データベースが組み込まれている。
  • メリット:無料プランが利用可能。多くの翻訳者との同時協力が可能。

5. Transifex

  • 特徴:クラウドベースのローカライゼーション・プラットフォーム。ソフトウェアやウェブアプリケーション、モバイルアプリのローカライゼーションに焦点。
  • メリット:リアルタイムの翻訳協同作業が可能。API統合により開発者と翻訳者の間の作業をスムーズに連携。

ここで注意してほしいのですが、特に4と5のツールは、翻訳会社向けの設計がされています。これは、これらのツールが翻訳者にアカウントを発行して使用させることを前提としており、大規模なプロジェクトや多数の翻訳者との連携に特化しているためです。したがって、個人翻訳者が自由に選択・使用する場合は1から3のツールを検討することがおすすめです。

一方、翻訳会社は4と5のツールを利用することで、翻訳者の管理、プロジェクトの追跡、および複数の翻訳者との一貫した作業環境を実現することができます。これにより、質の高い翻訳サービスの提供や効率的な作業フローの実現が期待できます。

クラウド対応のCATツールを使用することで、翻訳の効率化だけでなく、プロジェクト全体の進行状況の確認やフィードバックの受け取り、そして修正がリアルタイムで行えるのが大きな利点です。ただし、データのプライバシーやセキュリティに関する懸念もあるため、使用する際は十分な注意が必要です。

Transifexについて一言

Transifexは私のお気に入りのツールです。既に使用経験がある方もいらっしゃるかと思いますが、このツールの魅力は、何と言ってもその洗練されたシンプルさと実用性にあります。

その最大の特徴は、使い心地の軽さにあります。余計な設定や機能が排除され、必要不可欠な部分のみが網羅されているのです。翻訳者としては、テキストに完全に没頭するための環境が求められる中、Transifexはその理想をしっかりと叶えてくれます。

機能面での限定性が感じられるかもしれませんが、その限定性こそがシンプルさを生み出しており、直感的な操作が可能です。多くの設定や機能に迷いながらの作業は求められません。流れるような作業をサポートしてくれるその環境は、業務の質を向上させてくれます。

Transifexに関する案件が舞い込んでくる度に、私のテンションは確実に高まります。それほどまでに、このツールはストレスフリーで楽しい作業体験を提供してくれます。


クラウド対応CATツールはまだまだこれから感がある

Macを使っている私にとって、CATツールのクラウド対応は革命的な変革の兆しでした。長らくWindowsを中心に開発されてきたデスクトップのCATツール。そのため、Macユーザーとしては選択肢が非常に限られていました。そんな中、業界の巨人であるmemoQやTradosがクラウド対応を発表した時の私の期待は大きかったのです。

でも、実際の使用経験は…

期待に胸を膨らませてクラウド版のCATツールを試してみたものの、率直に言ってがっかりしました。インターフェースの反応が鈍かったり、一部の機能が正常に動作しなかったりと、まだまだ実用レベルには達していないと感じました。デスクトップ版の安定性や快適な操作感に慣れてしまっている私にとって、これは少々厳しい状況でした。

最近の動向について

最近は、クラウド対応CATツールを使用していないため、その後のアップデートや改善状況については詳しくは知らないのですが、もしかしたら今は以前よりも使いやすくなっているかもしれません。それに、技術の進化は日進月歩。期待して待ちたいところです。

結び

Macユーザーとして、クラウドCATツールには大きな期待を寄せています。現状に満足することなく、さらなる進化を期待し、前向きに業界の動向を注視していきたいと思います。