現代のテクノロジーは進化を続け、飛躍的な進歩を見せています。それは機械翻訳の世界も例外ではありません。

一昔前、翻訳の世界では「機械翻訳を使うのは御法度」というのが常識でした。翻訳者は自らの知識と技術だけでテキストを翻訳し、その精度や品質を保つことが求められていました。しかし、技術の進化は翻訳の現場にも大きな変革をもたらしています。

近年のAI技術の進化は、機械翻訳の精度を格段に向上させました。Google翻訳やDeepLなど、無料で使える翻訳ツールの出現により、一般の人々もその進化を日常で実感するようになりました。

Google翻訳とは

Google翻訳(Google Translate)は、Googleが提供する無料の機械翻訳サービスです。ユーザーはテキスト、ウェブサイト、またはドキュメントを入力すると、指定した言語から別の言語に自動的に翻訳されます。2006年にサービスを開始して以来、多くの言語ペアに対応しており、ウェブ上での使用や、スマートフォンやタブレット用のアプリとしても利用できます。

Google翻訳の技術は、時間とともに進化してきました。当初は統計的な手法を主に使用していましたが、2016年以降はニューラル機械翻訳(NMT)というディープラーニングに基づく手法を採用しており、翻訳の質が大幅に向上しています。

DeepLとは

DeepLは、ドイツの技術企業DeepL GmbHによって開発された機械翻訳ツールです。DeepLは、翻訳の質の高さで非常に高い評価を受けており、多くの専門家やユーザーから、市場で利用可能な翻訳ツールの中で最も正確なものの一つと見なされています。

DeepLの背後にある技術は、ニューラル機械翻訳(NMT)に基づいています。同社は、Lingueeという多言語の辞書検索エンジンも提供しており、このLingueeからのデータがDeepLの翻訳モデルの訓練にも利用されています。

DeepLは初めて公開されたときから、Google翻訳や他の主要な翻訳サービスと比較して、特定の文のニュアンスや文脈をより正確に捉える能力を持っていると広く認識されています。これは、高度なニューラルネットワークと大規模なデータセットを使用した訓練によるものです。

その高い翻訳性能とユーザーフレンドリーなインターフェースのおかげで、DeepLは多くのプロの翻訳家や一般ユーザーに支持されています。

翻訳者の役割も変わりつつあります。かつては、原文からの直訳が主流でしたが、今日では「ポストエディット」という仕事が増えてきています。これは、機械が翻訳したテキストを人間が再度チェックし、微調整や修正を加える作業を指します。多くの翻訳会社がこの方法を取り入れており、翻訳の効率と品質が大きく向上しています。

Ken

翻訳の支払い単価を100%としたら、ポストエディットは2、30%…

あざらし

せちがら

また、純粋な翻訳作業の際にも、先に機械翻訳を利用してからその結果をベースに翻訳者が修正する方法が増えてきています。これにより、短時間でより質の高い翻訳が求められる現代のニーズに応えることができるようになりました。

このように、機械翻訳の技術の進化は翻訳業界に革命をもたらしています。翻訳者自身も新しい技術を取り入れ、その可能性を最大限に活用することで、時代の変化に適応していく必要があります。


Google翻訳とDeepLの比較

ここでは、機械翻訳業界の二大巨頭、Google翻訳とDeepLを翻訳者目線で比較してみたいと思います。

1. 翻訳精度

自動翻訳のキモは、翻訳の精度です。DeepLはヨーロッパ言語のペアで特に強みを持っており、ブラインドテストではDeepLがGoogle翻訳をわずかに上回る結果が得られているそう。私がよく読むGigazineの記事でも、DeepLの翻訳能力が高く評価されています。

Ken

私の体感ではケースバイケースですね
DeepLのがいいときもあればGoogleのがいいときもある

Google翻訳とDeepLの翻訳精度については、このブログ内でも検証してみましたので、ぜひご覧になってください。両者の特徴が見えてくると思います。

2. 対応言語

言語サポートの面では、Google翻訳が130以上の言語で翻訳が可能なのに対し、DeepLは30以上の言語をサポート。対応言語の数ではGoogle翻訳が優勢です。

3. 使用インターフェースとオプション

使用感の面で見ると、DeepLはデスクトップアプリを提供しており、WindowsやmacOSから直接翻訳が可能。一方、Google翻訳はウェブインターフェイスがメインです。

4. 価格

少量のテキストを翻訳するだけなら、Google翻訳もDeepLも無料で利用できます。テキストを入力すれば、即座に無料の翻訳結果を得ることができます。しかしDeepLは、有料バージョンも提供しています。一番安い1,000円のプランでは、無制限のテキスト翻訳と、月に最大5つ、10MBまでのファイルを丸ごと翻訳することが可能です。詳しくはこちら

5. API

Google翻訳とDeepLは、どちらも有料でAPIを提供しています。このAPIを使用すると、さまざまなアプリケーションやウェブサービスに翻訳機能を組み込むことができます。特に、コンピュータ支援翻訳 (CAT) ツールにこれらのAPIを組み込むことで、翻訳者はCATツール上で機械翻訳の提案を受け取ることができ、効率的に翻訳作業を進めることができます。

APIとは

APIとは「Application Programming Interface」の略称で、ソフトウェアの異なる部分やシステム間での通信やデータ交換を行うためのインターフェースや規約のことを指します。APIは、あるソフトウェアが提供する機能やサービスを、外部のソフトウェアやアプリケーションから利用するための「入口」のようなものと考えることができます。

あざらし

むずいわ

Ken

この仕組みを利用すると、memoQやTrados内にGoogle翻訳やDeepLの機械翻訳が直接反映されます


長所と短所

以下は、それぞれに対する私の個人的な所感です。

Google翻訳の長所と短所

  • 長所:Google翻訳は原文に非常に忠実で、原文の意味を失わずに翻訳することが得意です。これにより、文のニュアンスや詳細を正確に伝えることができる場合が多いです。
  • 短所:しかし、この原文への忠実さが時として直訳的な結果を生むことがあります。また長文の場合、文の区切りが不自然になることも。さらに、ユーザーが訳語の選択や文体をカスタマイズする機能は提供されていないため、柔軟性に欠けると感じることもあるでしょう。

DeepLの長所と短所

  • 長所:DeepLの翻訳は非常に自然で、読み手を魅了する流暢さがあります。その質はまるで人間が翻訳したかのような錯覚を覚えることがあるほど。加えて、アカウントを作成すれば用語集の作成や丁寧語の選択など、カスタマイズの幅が広がります。さらに専用アプリを使用すれば、ショートカットキーを利用して作業効率を上げることも可能です。
  • 短所:一方で、DeepLは長文の翻訳時に原文の情報を省略する傾向があります。これは単語だけでなく、一文全体が失われることも。さらに、スタイルやフォーマットの一貫性が失われることも少なくありません。用語集機能は非常に魅力的ですが、常に正確に動作するわけではなく、登録した用語が翻訳に反映されないことや、過度なカスタマイズが翻訳の品質を低下させる可能性もあります。
用語集機能の暴走

私は「severity」という単語を「重大度」として用語集に登録したところ、予期せず「several」が「重大な」と翻訳される問題が発生していました。例えば、「several options」が「重大なオプション」と誤訳されるという。

同様に、「authorization」を「認可」と登録すると、「author」まで「認可」と訳されるようになってしまいました。

あざらし

機械がそんな間違え方すんの
人間の誤訳みたいやん

Ken

それからDeepLでは、日本語訳の中になぜか不自然なスペースが入ることもありますね

個人的なおすすめは…

間違いなくDeepLです。その理由を簡単にご紹介しましょう。

使い勝手の良さ

DeepLのデスクトップツールは非常に直感的。例として、TradosなどのCATツールを使用している際、Google翻訳を使用すると手間がかかります。原文のコピー、ブラウザへのペースト、そして再びCATツールへのペーストという手順が必要です。一方DeepLならば、原文を選択し、ショートカットキーを一度押すだけでDeepLでの翻訳がスタート。更に、出力された訳文をワンクリックでCATツールに取り込むことが可能です。

Ken

この問題はAPIを使えば解決しますが、APIの利用は少しハードルが高いので

編集の自由度

訳文の編集がDeepL上で直接可能です。更に、カーソルを合わせると他の翻訳候補も提示され、これを選択するだけで、全体の訳文が自動で調整されます。

用語集機能の強力さ

これは特に大規模プロジェクトで役立ちます。特定の単語を独自の訳語で訳す必要がある場合、DeepLではその単語と訳語を用語集に追加するだけ。例えば、”Integration” を「インテグレーション」と訳したい場合、このペアを用語集に登録すると、その後の翻訳でDeepLがこれを自動で反映してくれます。更に、”integrate”のような関連語も自動的に同じ訳語で翻訳してくれます。


ただし、DeepLの利用にあたっては注意が必要です。訳抜けが時々発生するため、どれだけ翻訳が自然に感じられても、必ず原文との比較チェックを行うことをおすすめします。また、上述したような不具合も多め。しかしその点を注意して使えば、DeepLは翻訳作業を劇的に効率化し、品質も向上させてくれます。


最後に、機械翻訳の進化は確かに素晴らしいものですが、それでも人の感性や文化的背景を理解する能力は機械にはまだ及ばない部分があります。翻訳者と機械が協働することで、より高品質な翻訳を実現する新しい時代が幕を開けています。